1.設立の経過
地域に根ざした女性のための活動
日本では1985 年に女性差別撤廃条約を批准するために、「男女雇用機会均等法」を制定しましたが、国内法は抜本的改革に至らず、新自由主義により1990 年代から非正規雇用が拡大し、女性たちの労働条件は悪化の一途をたどりました。このような状況を変えるために、均等待遇の法制化や制度改革を求めて「どんな働き方でも均等待遇、間接差別の禁止、同一価値労働同一賃金の実現」をスローガンに、均等待遇2000 年キャンペーンが全国的に取り組まれました。
未組織で働く女性たちが増大する中で、労働相談などを通して差別是正を求める声を集め、改善に向けた動きを発信できる場所が必要でした。男性中心・本工主義の労働組合では解決できない、女性独自の困難や差別について共有できる場所としてのセンターが求められていました。コミュニティ・ユニオン関西ネットワークで非正規労働者の均等待遇を求める運動を進めていた、せんしゅうユニオンの上田育子さん(故人)の積極的な働きかけで有志が集まりました。女性差別の撤廃と、性別や雇用形態の違いを超えた均等待遇実現のために手を携え合えるセンターをめざし、約5 年間構想を練り、「働く女性のための人権センターいこ☆る」が2004 年1 月に発足しました。初代代表には津村明子さん(故人)が就任し、事務所は津村さんが引退されるまで提供していただきました。
コミュニティ・ユニオン関西ネットをはじめ、多数の女性団体や文化人、連合大阪、弁護士や研究者など36 人が設立の呼びかけ人となりました。女性の労働権確立と均等待遇の実現をめざす運動を地域で具体的に根づかせることを目的とした、誰でも参加できる市民センターの設立には、女性たちの希望や大きな期待が寄せられました。
2.目的
・均等待遇の法制化と実現
・労働相談による問題解決
・情報交換、ワークショップ、労働講座や権利講座などを通して女性自身が力を付けるトレーニングセンターとしての機能
・孤立した非正規雇用の女性たちの横断的な連帯の強化
・シングルマザーや高齢者たちが生きやすい社会づくり
・実態調査や政策提言などを自治体との連携で進める
・働く女性のための新しい文化を創造し、発信する
3.主な活動
部門別にワーキング・グループ(WG)を作り、WG 毎に活動
労働相談、機関誌・ホームページ、働く女性の権利講座、シングルマザー応援団、ケア・ワーカー、ほっぷの会(国際基準の職務評価研究と実践)など。その他、さまざまなWG が自主的に活動しました。
<講演会・シンポジウムの開催>
各種の連続講座、シンポジウムやパネルディスカッション、全員参加型のワークショップなどを企画・開催し、問題を共しつつ解決に向けての意見交換を積み上げてきました。制度や法律の改正につながる講座を、労働組合関係者、市民運動家、弁護士、研究者など各方面の専門家を講師に迎え、多数取り組みました。
講座やシンポジウムのテーマは「労働」と「政治」に集約されましたが、女性が直面する具体的な課題に焦点を置き、社会変革に必要なツールについて学び、ワークショップ等で実践・体験しました。特に、均等待遇実現の柱である同一価値労働同一賃金原則(ペイ・エクイティ運動)の普及活動は、講座やワークショップなどで繰り返し取り組みました。アメリカや韓国の女性労働者との交流で、海外の女性労働運動も学びました。結成から10 年間ほどは、講座やシンポジウムに常時70~80 名が参加し、会員のみなさんが関心を持って自主的に取り組む、熱気あるイベントでした。
<労働相談>
毎週2 回の労働相談は、電話、メール、面談などで対応し、働く女性の全国センター(ACW2)のホットラインも、毎月1 回分担してきました。日常的な差別や痛みを労働相談で受けとめ、行政や労働組合、弁護士などの専門家と協力し合いながら進めてきました。
<実態調査など>
・「仕事と育児アンケート」仕事と育児に夢がありますか? その他
・いこ☆る手帳発行 ケアワーカー「知っておこう ホームヘルパーの働く権利」(2007 年)
<政策提言>
大阪府への申し入れや国会へのロビー活動に参加しました。また、男女雇用機会均等法改正やパート労働法改正に向け、連合大阪や諸団体と連携してのデモや集会、講演会などの均等ウェーブを取り組み、均等待遇アクション21のメンバーとともに、議員へのロビー活動や国会傍聴などに参加しました。
<創作活動>
・創作劇の制作と上演 『未来たちの詩』2005 年、『あんばらんすからジャンプ!』2007 年
・ビデオ講座 総会では1 年間の活動の振り返りをビデオで紹介
・レイバーフェスタにコントや3 分ビデオで参加
◎ 機関誌『働く女性の情報誌 いこ☆る』、Vol.73 まで発行
創刊号からVol.45 までは、40~50 ページでした。毎号、シンポジウム・連続講座・パネルディスカッション・ワークショップなどの詳細な報告と、連載、特集などで構成しました。HP には、全号の表紙と目次を掲載しています。
〔連載・巻頭〕 ☆いこる草(津村明子さんエッセイ)Vol.9~46 ☆いこる流労働相談 ☆「朝まで語ろう」インタビュー(さまざまな分野で活躍中の女性が生活や労働を語る) ☆ぷらっとシネマ(映画評)創刊号~70 ☆情報キリヌキ帳Vol.4~34(新聞・雑誌・テレビから時事や女性労働問題のニュースを紹介、解説) ☆いこるへのLOVE LETTER(いこるの活動への会員からの意見) ☆いこるの風を全国に(均等待遇の実現に向けて) ☆りんぐ・りんく わたしの思い☆わたしの職場 ☆こんな本読んだ ☆スウェーデンを通してみる「くにのかたち」 ☆ちよみ流クッキング ☆空町 猫町 日が暮れて ☆やかびのひとりごと
☆最賃審議会報告 ☆ちょっと一息 ☆さちこの見たよ 聞いたよ
〔特集〕 ☆男女雇用機会均等法やパート労働法について弁護士、全国の運動仲間、研究者の解説および職場の闘いの報告
☆同一価値労働同一賃金原則(ペイ・エクイティ)を求める運動の連続講座 ☆ケア・ワーカーが抱える問題、仕事と賃金を考える ☆改正パート労働法と当事者たちの闘い ☆どんな働き方でも均等待遇 格差社会から均等社会へ ☆労働者派遣法改正の課題 ☆「ハラスメントに負けない」座談会および連続講座 ☆女性労働者が自分の権利を取り戻す闘いを!韓国女性労働組合と交流 ☆パネルディスカッション 女の貧乏 なんでやねん!☆ペイ・エクイティとベーシックインカムの観点から ☆女性と社会保障 ☆税と年金問題 ☆大阪の政治 ☆労働契約法と有期雇用 ☆改正派遣法の問題点 ☆多様な働き方 ☆パワハラ・セクハラ ☆グローバル経済と女性労働 ☆外国人労働者の問題 など、その他多数あります。
4.果たしてきた役割と成果
全国でさまざまな運動に携わる女性たちが知恵と経験を持ち寄るネットワークで、ひとつの運動団体だけでは得られない女性の生き方や働き方全体を理解し、シェアし合って、各分野の専門家と意見交換しながら、新しい視点や観点を得ながら問題解決につなげることができました。
男女雇用機会均等法やパート労働法の改正時点で、実効性ある法改正にするために、全国の多数の女性団体やネットワークと協働しました。そして、さまざまなアクションを企画・参加しながら社会的にアピールし、実現に向けて連帯することで、提言を届けることができました。多方面にわたる権利講座や連続講座は常に充実した内容で、学びや展望を得る場として活かされました。各種裁判闘争や労働争議の支援、また最低賃金審議会での意見陳述など、当事者と共闘できました。
多数の女性たちと横断的につながることで、働く女性たちの状況は立法・行政・司法の三権の在り方など政治と直結しており、労働現場のみならず生活全体の場面で声を上げ続けることの重要性を共有することができました。いこ☆るは小さなグループですが、いこ☆るならではの価値ある取組みをしてきたと自負しています。
5.解散について
この10 年間くらい、いこ☆るの活動をもっと拡げるため、若い世代につなげるためにと、さまざまな取り組みを進めてきました。新規会員を増やすため、コロナ前にはいこ☆るの紹介や会員募集を載せたリーフレットを作成し、いろんな所に配架をお願いしてきました。しかし、次世代の会員増加にはつながりませんでした。
21年間の活動を経て、会員や運営委員のライフスタイルも変わってきています。そのため、年々、会員は「働く女性」という現役世代減少で、高齢化とともに退会される方も増えています。
いこ☆るの運営は、コロナ前に財政面で大きな危機的状態に陥り、それ以降、事務所の移転などでかろうじて持ちこたえるよう、毎年さまざまな工夫を重ねてきました。しかし、運営委員も高齢化し、また交代や減少もあり、物理的にも精神的にもと多方面で困難の度合いが徐々に大きくなってきています。
コロナ禍の影響もあると思いますが、この4~5 年は、総会・記念講演や年二回の講座への会員の参加は非常に少なくなっており、オンラインでの各地の一般の参加者に支えられて開催してきたような状態が続いています。
機関誌「いこ☆る」の発行は、活動のもう一つの大きな柱です。執筆者の拡大をめざして、毎号で寄稿の呼びかけをしてきましたが、これも、会員からの反応はほとんどありませんでした。
このように近年では、会員とともに進めてきたいこ☆るの活動を、今後も続けることに無理が生じ始めていました。そこで、昨年6 月1 日付けで会員のみなさまには実情をお伝えし、総会や講座への参加、運営委員になっての関りや機関誌への寄稿などを呼びかけ、お願いしました。しかし、残念ながらその後も改善の兆しを得ることはできず、運営委員会も今後の活動の展望を見出すことができませんでした。
現在、世界に対立をもたらす戦争が続き、各国で分断と民主主義の崩壊が進み、人権侵害とバックラッシュが横行するという、悲惨な状況が進行しています。日本も近年、著しい政治の劣化、軍事化とともに経済の停滞が重なり、女性を取り巻く環境の改善は一向に取り組まれず、より悪化しています。このような情勢の中で、女性労働問題に主眼を置き、女性が尊厳を持って働き続けることをめざした「働く女性の人権センターいこ☆る」の活動には大きな意義があり、この活動の継続を心より願っているところです。社会を形成する労働環境の改善、とりわけ女性の労働条件は次世代にもつながる課題であり、突出したジェンダー不平等のこの国においては、女性差別の撤廃を求める運動は極めて重要です。
しかしながら、この度、いこ☆るの解散を提案するに至り、大変無念な思いでいます。
ジェンダー平等と均等待遇は永遠の課題です。その実現を求めての運動が止むことはないでしょう。会員のみなさまには、今後ともさまざまな運動に参加され、さらにご活躍されることを祈念いたします。
長い間、ともに活動し、ご支援いただいたみなさまに、心より感謝申し上げます。
運営委員一同 
